宝来館、女将さんの話―津波てんでんこ

近くに釜石市鵜住居小学校と釜石東中学がある。この学校では日頃から、津波に対する避難の学習をしていた。小学の子は一応目標の高さまで逃げてきたが、後から来た中学生がもっと上まで逃げようとしているのを見て、先生はすぐに一緒に逃げることにした。中学の子は小学の子を助けながら、一緒に上へ上がっていった。全員が助かった。
この辺の学校は、日頃から防災の教育をしていて、「今日帰ったら、必ず家族と話をせよ。夕食の時に“今日こんな話を聞いた”と話せ」と云っている。つまり学校だけの教育ではなく、それが地域全体につながるようにしていたのだ。
ある家では、小学生が夕食時に学校で聞いた話をした。その家には目の見えないおじいさんがいたが、「もし津波が来ると分かったら、裏山の洞穴に行く。わしは目が見えんでも行けるから先に行っとる。みんなは絶対に家を見に戻るな」と云って、孫が直接洞穴に来るように言った。
今回の津波に対して、孫二人は直接洞穴に行った。その両親は町で別々のところで勤めていたが、後でそこへたどり着き家族全員が落ち合った。その時に通ったのは、瓦礫や船や車などが打ち寄せて通れなくなっている車道ではなく、尾根の道である。今では車社会になっているので、ほとんど通る人もなく、荒れてしまっていたが、一応道をたどることができる昔の尾根道である。
津波てんでんこ”と云う話は、みんなの信頼の中で「それぞれが生き残ろう、生き残ってこそまた会える」という心のつながりの話だ。
暗い写真で申し訳ないが、パソコンを使って説明している人が女将さん。「2019年のラグビーワールドカップを誘致して復興の記念にしたいので、協力してください」と言っていた。