“たべもの”の言葉 あまい・やわらかい?

 吉田健一だったと思うが、食べ物味は「弾むような歯ごたえと旨味だ」と書いていたように思う。少し乱暴な思い出し方をすると、「酒も同じだ。口に入った時に感じる旨味と、飲む時、鼻に抜ける香りだ。酒は水みたいな口触りがいいんだ」といっていたように思う。
 テレビで毎日〃〃、食べ物の番組が全盛だ。気分の悪いのはすぐ切るのだが、「あまい、柔らかい、美味しい」と大声で怒鳴るのが聞こえると、やりきれない。大体このような連中は人相も良くない。そもそもこの言葉は、全く食べ物の表現に似つかわしくない。これらは、「あまい=頼りない、柔らかい=性根がない、美味しいヤツ=おいし→お+いし=良い、殊勝である→まあ、かわいいヤツだな」という意味だ。
 子母沢寛だったか、冷や飯しか食べないので、女中さんが往生したという話がある、冷や飯でも「弾むような歯ごたえ」は健在だ。そして噛んでいると「旨味」が口の中に広がり、鼻にぬける。
 この「旨味と弾むような」は一体となっていて、御飯はもちろん、野菜でも蕎麦でもうどんでも卵焼きでもこんにゃくでも、材料がよいと弾力があるように感じる。結局、①口に入れた時、柔らかいようでいて弾むような食感がある、②マイルドで旨味が広がる、③香りが良くて、食べている間中それが鼻に抜けて、気分がいい、ということだと思うがどうでしょうか。