狐のたくらみ


 私の読書体験に第一位に上がる本だ。大阪に勤めていた8才上の次兄が送ってくれたモノである。昭和22年の発行だから、私は小学5年生だったことになる。
 一読、訳が分からなかったような記憶がある。それが、今思い出させる理由にもなっている。
 動物国のライオンのもとに、正直者のタヌキ男爵や、いつもズルく立ち回るキツネ子爵などがいて、何時もキツネが、モノを取ったり、小さいウサギなどを食ったり、あらゆる悪の元で、問題を起こしていた。それに対して正直者のタヌキ男爵が告発をし、みんなもそれに賛成して王様の元で裁判が行われる。
 もちろん大衆はキツネを糾弾するが、口のうまいキツネの弁舌によって「両者が決闘でけりを付ける」というライオンの判決になる。
 決闘の当日、正直者のタヌキは正直に準備するが、キツネは全身の毛を剃り、油を塗って掴み所の無いようにする。さらに、シッポにトウガラシの粉を付けて、それで眼を狙うことにするのだ。
 毛を剃ったキツネが広場に出たとき、全観衆は嘲笑の笑い声を発して馬鹿にした。ところが決闘は一方的にキツネの勝利になる。タヌキは目をやられて、見えないままに暴れるが敵ではない。動けなくなったところで、ライオンはキツネの勝利と正義を認定する。全観衆は、数匹のタヌキの親戚を除いて、全員でキツネを褒め称え、熱狂的に賞賛した。
 私は、今でも「正しい」とか「正義」は嫌いだ。この言葉には誠実さは感じない。
 この写真の本は、兄の想い出を残すために、ネットで探して買ったもの。もらった本はどこに行ったか分からない。55年前ぐらいに家を建て替えたときに、いろいろなものがなくなったのだろう。