「ある過去の行方」 久しぶりに映画青年になった気分

<5月ごろに観た映画で、感想を書きかけたままになっていた。日記のつもりで投稿>
久しぶりに映画を見た気になった。50年以上前に、ポーランド映画を見た時のようだ。
監督はイラン人のアスガー・ファルハディ。映画が進んで行っても、話がどう展開していくのか全く予想しえない。
最初のシーンからして変だ。一人の女が空港で男を迎えている。映画的でも、物語的でもなく、非日常でなおかつ日常のような、「会いたい、待っていた」というような雰囲気はなく、ひょっとして事務的な雰囲気だ。人間関係がスリリングというか、誰にでも起こりそうな日常の中の予測しがたい展開がマリーという女性を中心に進む。
彼女は夫と別れて4年がたつシングルマザーで、子持ちの男性サミールとの再婚を予定し、新たな生活を始めていた。しかし、正式な離婚手続きをしていないため、イランにいる前夫のアーマドをパリに呼び寄せる。マリーの家族は、長女リュシー(誰との子供かはっきりしない)、ファッド(サミールの子供)、サミールの4人だが、関係はしっくりいっていない。逆に、二人の子供は、前夫のアーマドと仲がいい。長女リュシーとの関係がうまくいっていないというマリーから、娘の本音を探ってほしいと頼まれたアーマドは、リュシーの話を聞くことになるが……。
イラン映画で初めてアカデミー外国語映画賞を受賞、ベルリン国際映画祭でも金熊賞を含む3冠を達成した「別離」(2011)のアスガー・ファルハディ監督が、初めて国外を舞台に撮り上げた長編作。
効果音(BGM)も殆ど使われておらず、水道管の詰まる音や、シャワーの音、バタバタと扉のしまる音、騒がしい道路の音など「庶民の暮らしの雑音」を際立たせる。主人公たちも、皆黒い髪で「移民?」なんだろうな、という雰囲気。パリ?で暮らす彼らの部屋は、ゴチャゴチャ物があふれており、雑然としている。あの陽の当たり具合は北側に面している部屋?(まあ日本人ではないから気にしないかな)。あんなに片付かないテーブルでは食事したくないなー、なんて見ながら思ってしまう。
ラスト近辺、事件の発端が明らかになってくると………「えっ!そこかよ原因は」というような展開である。主人公の女性は薬局に勤めていて、その向かいに2回目の夫の職場(クリーニング店)があるのだが、そこで働いている「不法就労若い女性」が絡んでくるのだ。
フランスの移民事情については、全然知識が無いけれど、彼らが生きていくのは大変なんだろうな。そんな事情を気にするようになる映画だ。だから、あの女性も一人では生きられなくて、生きていくのが嫌で、「今度こそは!」と息巻いてしまい、家族の気持ちも顧みず突き進んでしまったに違いない。そして、不倫相手の奥さんを著しく傷つけることになり、家族も傷つけることになり・・・。2人目の男との離婚は成立して、あの安アパートは手に入れる事が出来ていたけど、その後どうなるんだろう・・・と気になる。3人目の男とはムリそうだし。4人目の男を見つけることになるのだろうか
 デジャビュ感があったので、最後に一言付け加えると、カメラワークは“小津安”の映画を見たような気がした。