「孔子様の教えが悪いのです」

テレビでこの言葉を発したのは、中国人女性で日本語作家の楊逸さん。私は卒倒するほど驚いて、ついでニヤニヤした。その時の相手が孔子の子孫だと云っている孔健氏と、日本人の評論家だったか、ニュースキャスターだったかである。その時のテレビ討論のテーマは、尖閣列島の中国漁船問題だったと思う。
この問題については、日本と中国の価値観・文化の違いがあり、「中国側には公共概念が無く、一族主義だから日本と共通の会話が成り立たない。その真因は孔子の教えだ」と言ったわけではなかったが、そう受け取れるタイミングでサラリと話した。相手の孔健氏は意外な直撃を受けて、もぐもぐ言いかけたが黙ってしまった。勿論日本人の司会者は、誤魔化しにかかった。
日本で云われている儒教と、中国や朝鮮などの儒教は違うのではないかと思ったのは、40年近く以前のことだ。地域計画の事務所に入って、2〜3年たったころ、在日韓国人の大学院卒が入ってきた。そして、就職もしたからという訳なのか、韓国の父祖のふる里へ里帰りをした。その時彼は数十カ所に土産を持って行かねばならんと云って、用意をしていた。「なぜそんなにいるの」と聞いたら、「日本から帰省したと云うことになると、成功して帰ってきたことになるので、余り知らない親戚まで集まってくる」ということだった。
ついで、いろいろ韓国のことを聞くと「国内で出世したら、親族が集まってきて、なんか便宜を図れ」といって、そこにぶら下がって暮らす人が増えることになるらしい。韓国の儒教思想からすると、親族に便宜を図らないと(日本流に云うと汚職になるようなことをしてでも)、非難されてしまうということだった。
つまり、「割り切って云えば、公共よりも親族便宜の方が、道徳順位が高い」と云うことだった。
元の話に戻すと、「孔子様の教えが悪いのです」という楊逸さんの言葉も、中国では「公よりも親族や縁故を大事に思う野は孔子様の教えから来ている」という意味であった。共産主義とは「公のために命をかけよ」ということだと思ってきたが、儒教国にあっては、公はたいした問題ではないという思想が強いらしい。